刺さった割りばしが小脳まで

1999/07/16-2006/3/29

ご注意

 このページは、1999年の最初のニュースの段階から、その時点でマスコミ等で得た情報をもとに感想を書き連ねたものです。2003年現在ではい ろんな方からいろんな情報をいただき、私の感想も最初の時点の意見とはずいぶん異なってきました。

 しかしそれを反映させると、全面的な書き換えになってしまい、以前の感想を消してしまうことになってしまいます。ここではその時点での意見を大事 にするため、基本的に過去の記載に手を触れずに追加する形式としています。今となっては不適切と考える表現もありますが、後日訂正した部分もありますの で、ご了承下さい。


---99/07/16の初版----------------------------------------

私も、この事例で医療側の責任を問うのは酷だと思います。

  私自身も今まで、同様な原因で歯ブラシを奥歯周辺に差し込んで時間外に来た子供を2人は診察したことがあります。その経験からしても、特に異常 が認められなければ、箸が深く刺さったことがはっきりしていないかぎり、「何かあったら来てください」と説明して帰宅してもらうのが普通の対応だと思いま す。

  今回の報道で思うのは、わたしの見た限りこのような怪我の予防の啓蒙に力が入っていないことです。

  今回の親御さんには酷かもしれませんが、この怪我は尖った物を持って子供を歩かせた親に責任があるのです。普段から、歯ブラシを口にくわえて歩 き回らない、はさみなど先の鋭いものを持って歩かない、やむを得ず持つときは先端を手で包んで持つ、といったことに注意してしつけもしておく必要がありま す。

  マスコミがこのような怪我の予防策の啓蒙に努めることが、悲劇を繰り返さない有効な手立てではないでしょうか。

おまけ
 老夫婦が孫を抱いて車で移動中事故を起こし、孫だけが死んだ事例があります。車内で野放しにされている子供を見ると、保護者に殺されかかっているような 気さえするこのごろです。

---99/08/07 追加-----------------------------------------

どうすればこのような悲劇を減らせるか……

  子供のしつけの点については既に述べました。コメントもいただきありがとうございました。つまらないことですが、もう一つ考えついたので追加し ます。

  日本ワタアメ業協同組合(実在するかはわかりませんが)は、ワタアメの箸の形状を変更すべきです。正しく表示されない場合があると思いますがお 許し下さい。

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  箸の先端に十分大きな円盤か球体を取り付ければ、万一くわえて転んでも脳まで達する確率は確実に低くなるはずです。

世のマスコミもこのような提案の一つもしてくれて良いと思いますが。

---99/8/17追加----------------------------------------

 割り箸が脳に達して亡くなった子の件ですが、きょう新たに解剖で脳付近に割り箸が残留していたことが明らかにされました。「医療ミス」とされる可 能性が高まったかもしれません。世論の盛り上がりによっては刑事責任に発展するかも(まさか有罪にはならないでしょうが)。 また一部報道によれば、死亡 直後のCTで血の塊は映っていても箸は確認できなかったようですね。

以上をふまえて意見を箇条書きにします。

・病院には箸は持参されなかったと推測される。
・箸が持参されればその短さから当然残留を予想すべき。
・箸が持参されない場合も、一応残留を疑ってCT(コンピューター 断層撮影)を行った方が良かった。
・CTでは箸自体は映らなかった可能性が高いが、出血の範囲がわ かったかもしれない。
・CT検査などで時間をかけて観察すれば、意識障害が(あったとす れば)発見できたかもしれない。
・適切な診断が行われれば救命可能だったのかは、私にはわかりませ ん。

 こう書きつつも、私が現場にいて正しく診断できたかは疑問です。この手のケガはありふれており、大事に至った経験を知らなかった(この件までは) からです。

 私が刑事責任追及に反対なのは、過失が重大とはいえないと考えるからです。助かって当然のケガを、当然すべきことをせずに死亡させたのなら別です が。最近の報道を見ても、より重大な過失がたくさん起こっています。ご批判を覚悟で、交通事故の過失相殺のように割り箸事故も過失の軽重を考えてみましょ う。やはりケガをさせてしまったことに最大の過失があると思うのです。仮に自分の子が学校の行事の途中にこの事故で死亡したとすると、過失の順序(訴訟を 起こす相手)は、(監督責任のある)学校、病院、ワタアメ製造者の順だと思います。

 話はやや脱線しますが、世の中は「自己責任」の時代になりつつあります。増水した川の中洲にキャンプを張って遭難した、自殺同然の事故が今もメ ディアを賑わしています。危険を冒して救助・捜索にあたる人々の姿に頭が下がります。その報道の中で、記者がダムの管理者にダムの放流は正しかったかと食 い下がる場面がありました。管理者は普段より念入りな対応をしたのですから、むしろほめられるべきなのに、なんだか責められているようで、気分が悪かった です。

---以下は2000/7/10追加-----

報道によりますと、7日、当直勤務だった耳鼻咽喉科医師が書類送検されました。ここまでは当然予想されたことですが、問題は起訴に至るかどうかで しょう。しかし、ここまでにかかった時間は長かったですね。

---2000/10/19 追加----

報道によりますと、12日、両親が杏林学園と担当医師を相手取り、8900万円の損害賠償を求める訴訟をおこしたとのことです。 刑事はともかく、 民事的には賠償責任はあるんだろうなぁ、と思います。

---2002/8/5 追加----

東京地検は2日、業務上過失致死の罪で当時同病院で診察した医師(34)を在宅のまま起訴したとのことです。起訴まで2年かかりました。最近医療事 故が話題になっているためでしょうか。時代の流れでしょうか。

最近、近所のどの夏祭でも、綿菓子は割り箸から外して袋入りで渡してくれます。教訓は生かされているようです。

---2002/09/19追加 2003/12/18一部訂正----

「割り箸が脳に刺さった我が子」と「大病院の態度」(2000年10月発行)を読みました。「霊柩車の運転手さんが道に迷ってお子さ んの思い出の場所を回ってしまう」という記述は、にわかに信じられず鳥肌が立ちました。

 事故時に親御さんがそばにおられなかったこともわかりました。普段注意していても、目の届かないところで転んだのであれば防ぎようがなかったと思 います。冒頭に書いた親御さんの責任という意見は間違いだっだと思います。口にくわえて歩かないように周りの大人が注意してあげてればよかったのですが。

 読んでみて、医師への情報提供の大切さが改めて身に浸みました。「割り箸が喉に刺さった」というのは医師から見ればありふれていて先入観を持ちが ちな情報です。結果論でしかありませんが、もし以下の事実が伝えられていたら……と思います。

・刺さった直後から唇の色が悪くてぐったりしていたこと。
・救急車の中から何度も嘔吐を繰り返していたこと。

 一方では、母親も医師にいろいろと尋ねていますが、それに対する医師の対応は必ずしも十分とは言えなかったという感想を持ちました。ここが刑事責 任の主たるところでしょうか。また、上述した「箸は持参されなかった」ことが確認できました。折れた箸も現場で確認されていないようです。

 ただ、箸の件については、本書では「箸が残留していたのなら当然診察で見つかるはず」とのスタンスをとられているように思います。私は、子供さん の足の傷を治療していて、偶然その傷の中から長さ2cmほどの割り箸の断片を摘出したことがあります。見落として傷を縫う可能性は十分ありました。その 時、私はもちろん家族でさえ箸の残留を予想できませんでした。何でけがをしたかすら家族は知らなかったのですから。足を外から触ってもわからなかったので す。足でさえそうですから、子供の口の奥の傷を見たりちょっと触ったくらいで、その奥に割り箸を発見するのは容易ではありません。

 起訴について追記します。これはやはり衝撃でした。この医師の過失はそこまで重いものでしょうか。結果として救急現場では医師が自己保身に走り、 無駄な入院や検査で医療費は高騰、小児救急患者がたらい回しで亡くなるなど、かえって不幸な犠牲者が増えるのではと危惧します。

 本当の救急病院は、事務員も含めた全職員を2交代か3交代勤務にして、24時間いつでもその施設の全機能を発揮できるようにすべきです。そんな当 たり前のことを許さぬ現在の医療制度を作った政府の責任は問われぬままです。。。

---2003/10/27-12/18追加----

 刑事裁判も進んでいるようですが、その後にいろいろと読んだり教えてもらった種々の情報を総合すると、以下のようです。

・割り箸はのどの奥から口の中へ突き出ていた。

・しかし口の中を一見しただけではわからなかった。

・ミラー等を使えば見えた可能性が高い。

・その子は、ぐったりしていて、普通の医師なら異常に気づきそうな状態 であった。

・受診時に箸の残留が分かり、手術が行われれば助かった可能性がかなりあった。

 99年に思った、「この事例で医療側の責任を問うのは酷」という気持ちは、今はあまりありません。「助かって当然のケガを、当然すべきことをせず」というほどではありませんが、当然すべきことをすれば助かったかもしれないという感じです。

 時間がかかった後とはいえ、結局書類送検や起訴に至ったのは、調べれば調べるほどに過失が明らかになってきたからのようです。 

 でも、依然として「自分が診察していても同じ結果だったかも…」という気持ちは残っています。とうぶん消えることはないでしょう。裁判の結果はま だ先のようです。

---2006年3月28日追加(久しぶりです)---

 直前に判決のニュースをML等で教えてもらっていました。思いのほかマスコミの扱いが大きくてびっくりしました。

「診断ミスがあったことは認めたが、「治療したとしても延命の可能性が低かった」と述べ、無罪(求刑・禁固1年)を言い渡した。」

 最近は「帝王切開事故で執刀医逮捕」とか、「『熱心だと評判の医師』による呼吸器外し問題の深層は」等、納得いかない事が多いですが、この件はどちらかというと「刑事は過失認定で無罪」が妥当なところのように思えます。

 新聞にも載っていましたが、改めて思うのは、医療者と患者のコミュニケーションのずれです。「喉に箸が刺さりました」と言われても、医師には「折れた箸が残っているのでは」とはなかなか想像できないし、「楽にしてあげてください」という言葉が、医師には「死なせてあげてください」という意味にとれるし、「子宮は絶対取らないでください」と言われれば、一瞬の判断が狂ってしまうこともあるのかもしれないし。

---リンク---

関連発言(NIFTY会員のみ)(既にサービス閉鎖)

杏林大学医学部 同窓会サイトの記事 (リンク切れ)

暮らしと世間 (リンク切れ)

書評「割り箸が脳に刺さった我が子」と「大病院の態度」 (リンク切れ)

悲惨な死ではあるが(リンク切れ)

MedWave Professional  【投 稿】割りばし事件の刑事告訴について (登録が必要です)

再発防止 願いは切実

不当起訴された耳鼻科 医を支援する会(支援してるわけではないですが、リンクされているので、一応)

 あまり関係ないですが、資料集めの途中で目にとまったページです。院長雑感(47号) (2006/3)

裁判長の言葉(粂さんが判決要旨の付言を引用してくださっています.2006/4)


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