私がパソコン通信をはじめたのは、ようやく1200ボー(bps)のモデムが安くなった頃です。EPSONのSR-120ATという型番だったと思います。当時のモデムは上に電話機がおけるように、平べったい形でした。当然パソコン通信の先達たちは300bpsのモデムや、音響カプラを使っている人までいました。
そんな低速接続の人もいる環境でしたから、電子会議室や掲示板で他人の発言を引用して同じ文章を延々と表示させる行為は、電話代やセンターの課金増を強いる事になり重大なマナー違反でした。2400、9600とモデムが高速化するとともにそこまで厳しくはなくなりましたが、「引用はほどほどに」という原則は残りました。
時は流れて90年代前半、インターネットの利用者(大学の教官が多かった)から、引用の必要性を教わりました。当時はメールやネットニュースはtelnetのような端末で表示するので、過去の文章を保存することが稀だったのでしょう。もちろん端末にログ保存の設定はありましたが、いつも保存するわけではないし、保存した文書を管理するのも容易ではないので、メールの返事には元の文章を引用するのがマナーでした。
このマナーの違いは何によるのでしょうか。私は保存性と通信料金に着目しました。
パソコン通信ではセンターに過去の文章が保存されていますので、読み直すのは容易です。また、誰もが電話代の節約のために、読むべき文章をダウンロードしてから回線を切り、じっくり読むように習慣づけられていました。
一方、インターネットでは読み出したメールはサーバーから削除されるのが普通です。また、特に初期には電話代を払ってインターネットにアクセスするような人は少なかったはずです。
最近のインターネット利用者のほとんどは、プロバイダーに電話をかけ、telnetでなく、保存機能のあるメール専用ソフトでメールを読んでいます。ですから、パソコン通信に近い利用形態になっているのです。
保存 | 回線料金の個人負担 | |
パソコン通信 | センター | 多 |
初期のインターネット | まれ | 少 |
最近のインターネット | 自分のパソコン | 多 |
ですから、メールソフトを利用する人にとっては、過去のメールは手元に保存されているので、メールの返事に元の文章を引用する必要性はないはずです。
もっとも、毎日何十通ものメールをやりとりする人にとっては、過去のメールを探し出すのも面倒ですので、返事に引用がされていると便利です。個人メールでは引用を多用してもよいでしょう。
また、通信速度も磁気ディスクの容量も、300bpsの時代とは10の何乗も違いますので、その点では目くじら立てることではないと思います。
しかし、メーリングリストは別です。一つの発言に何人もが同じように引用してメッセージを返してくると、読まされる者には、どれがその人の言い分でどれが引用部分かわからなくなってきます。自分の文章を人に読んでもらうためにも引用は避けるべきです。また、その無駄な引用メッセージが何百何千の人に送られているわけです。さすがに資源の無駄です。
メーリングリストでは他人の発言の引用は慎むべきだと思います。
おまけ(あるいは文章の公開が遅れた理由)先日仕事場に来訪した客人が、「ちょっと自分のメールをチェックしましょう」と言って、傍らのパソコンでいきなりtelnetを起動してメールをチェックしていました。やはりこんな方もいらっしゃるのだと考えを改めるとともに、外出先からのメールチェックの方法としては迷惑のかからない良い方法だと思いました。